最近、”インクルーシブな遊び場”や”インクルーシブな遊具”といった言葉を耳にすることが増えてきました。
このHP内のブログでも、多々取り上げてきていますが、インクルーシブな遊具の導入は、
遊具を利用する子どもたちの関係性に対して、どのような効果を生み出しているのでしょうか?
みんなで一緒に遊ぶことで、関係が自然に生まれていく
公園や遊び場という同じ場所にいながら、「遊んでいる子」と「見ているだけの子」に分かれてしまう光景を見たことがある方も多いと思います。
インクルーシブな遊具がある遊び場では、こうした分断が少しずつ変わっていきます。
インクルーシブな遊具の大きな特徴のひとつは、
身体の動かし方や感じ方が違っても、同じ遊びに参加できることです。
スイスのインクルーシブ・プレイグラウンドを対象にした研究(Wenger et al, 2021)では、
インクルーシブな遊び場では障害のある子もない子も、同じ遊具・同じ空間で遊ぶ時間が増えることが報告されています。
身体の動かしやすさや感じ方の違いに関係なく、複数の子どもが同じ遊具に関われることで、自然と「一緒に遊ぶ時間」が増えていくのです。
そこでは「次どうやって遊ぶ?」と相談する、順番を決める、相手の動きに合わせてスピードを変えるといった、ごく自然なやりとりが行われます。
研究者たちは、こうしたやりとりが増えることで、遊びが「個人の活動」から「人と人との関係の中で生まれる体験」へと変わっていく、と指摘しています。
インクルーシブな遊具は、仲良くすることを目的にしていなくても、結果として関係が生まれやすい環境をつくっているのです。
「助ける・助けられる」から「一緒に楽しむ」関係へ
もうひとつ、多くの研究の中で繰り返し語られているのが、
子ども同士の“お互いの見え方”が変わるという点です。
たとえば、これまで遊具を使えずにいた子が、同じブランコや回転遊具で楽しそうに遊んでいる。
その姿を見たとき、周りの子どもたちは自然と「同じ遊びを一緒に楽しんでいる仲間」と感じるでしょう。
これは、子ども同士の関係にとってとても大きな意味を持ちます。
誰かを「助ける役」「助けられる役」と固定してしまうと、どうしても上下関係が生まれやすくなります。
同じ遊びを同じ立場で楽しんでいるときには、その関係はずっとフラットになります。
遊具が変わることで、子どもたちの中にある“距離感”や“役割意識”も、少しずつ変わっていく。
それが、インクルーシブな遊具が持つ、目に見えにくいけれど大切な効果です。
大人が介入しなくても、子ども同士で関係が育っていく
インクルーシブな環境づくりというと、「大人がどう支援するか」に目が向きがちですが、
研究では子ども同士の関係そのものが、インクルージョンの鍵になると指摘されています。
幼児期のインクルーシブ環境を調べた研究(Ferreira et al, 2018)では、
空間や遊具が適切に整っている場合、大人が積極的に介入しなくても、子どもたちは自分たちで関係をつくり始めることが示されています。
同年代の仲間は、遊び方をまねしたくなる存在・一緒に挑戦したくなる存在・「ここにいていい」と感じさせてくれる存在です。
インクルーシブな遊具は、そうした関係が生まれる“きっかけの場”を、そっと用意してくれます。
遊具そのものが「仲良くさせる」のではなく、仲良くなれる状況を自然と生み出しているのです。
インクルーシブな遊具は単なる「配慮」や「特別な対応」ではなく、
子どもたちが社会性を育てるための大切な土台になっているのです。
まとめ:インクルーシブな遊具は子どもの関係・距離を縮めてくれる
インクルーシブな遊具は、「障害のある子も使えるようにするためのもの」と思われがちです。
けれど、研究を見ていくと分かってくるのは、それ以上に子ども同士の関係性そのものに影響を与えているということです。
同じ遊具で遊ぶ時間が増えることで、自然な会話ややりとりが生まれ、
お互いの「違い」を意識する前に、「一緒に楽しい」を経験していきます。
インクルーシブな遊具は、誰かを特別扱いするためのものではなく、違いがあるまま、同じ場にいられる状況をつくるための道具です。
遊びの中で生まれる”同じ体験を共有する瞬間”が、子どもたち同士の距離を少しずつ縮めていくのです。
その積み重ねこそが、インクルーシブな遊具が子どもたちの関係性に与えている、いちばん大きな価値なのかもしれません。
また、インクルーシブな遊具によってインクルーシブな関係性が生まれることで、
子どもたちを中心に多様性を受け入れる地域社会となっていくことができれば、社会全体に大きな価値をもたらすとも考えられます。
これからもアソビトは、子どもたちの関係が育つ遊び場づくりを大切にしていきます。
■参考文献
・Wenger, I., Schulze, C., Lundström, U., & Prellwitz, M. (2021).Children’s perceptions of playing on inclusive playgrounds: A qualitative study.Scandinavian Journal of Occupational Therapy, 28(2), 136–146.
・Juliene Madureira Ferreiraa, Marita Mäkinenb & Katia de Souza Amorimc.(2018)Reflecting on Inclusion in Early Childhood Education: Pedagogical Practice, School Space and Peer Interaction: Varhaiskasvatuksen Tiedelehti.Journal of Early Childhood Education Research,Volume 7 Issue 1 , 25–52
